CAEソリューション
射出成形CAE活用のポイント
第1回:射出成形CAEの概要
1、はじめに
本コラムでは業務の中で射出成形を活用するためのポイントについて、実現象との比較という観点で説明していきます。
実現象と対比することで、CAE上で何をしているのか・結果をどのように活用すれば良いかを示して参りますので、射出成形CAEの導入を検討されている方やCAE担当者の方の参考になれば幸いです。
2、実成形と射出成形CAEの対比
ここでは射出成形CAEの概要について、実現象との対比を通してご説明します。
実現象では、射出成形機に形状を形成するための金型を用意し取り付け、材料となる樹脂を投入します。その後、射出成形機のインターフェースに条件を入力し、運転させることで成形品を得ることができます。
一方の射出成形CAEでは、樹脂の物性データ、成形品のCADモデル、環境を再現するための解析条件を用意し、射出成形CAEソフト上のインターフェースに入力します。入力された情報をソフトウェア内部で処理し計算を解くことで、解析結果を得ることができます。
実成形および射出成形CAEの要素は以下の図表のように大別され、対応関係にあります。
実現象 | 射出成形CAE | 射出成形CAEで実現象を再現する手法 |
---|---|---|
樹脂材料 | 樹脂データ | 樹脂物性の測定 測定値フィッティングによる物性式の作成 |
金型 | 解析モデル | 形状モデリング:成形品形状、金型形状、冷却管形状 メッシュ:有限要素法による離散化 |
成形条件 | 解析条件 | 初期条件:樹脂温度、射出速度、保圧など 境界条件:金型温度、室温など |
物理法則 | 支配方程式 | 運動方程式、エネルギー方程式、一般化Newton流体の構成方程式、フックの法則など |
成形品 | 解析結果 | アニメーションによる流動工程の可視化 コンターによる結果の分布表示 モデルによる変形の可視化 |
3、活用のポイント
樹脂射出成形CAEは、上記のように実成形を再現することができるため、製品開発における成形トライ&エラーの一部を早い段階で実施できるというメリットがあります。(フロントローディング、コンカレントエンジニアリング)
例えば、形状が起因となる不良を早期に発見し対策を盛り込む、ゲート設計がウェルドラインに与える影響を金型製作せずに適切化する、などが可能になります。
ここで注意が必要な点としては、支配方程式や物性情報などの複雑さから、射出成形CAEは現実を完全に再現することは困難であることを意識することです。
射出成形CAEの目的は、「現実を完璧に再現すること」ではなく「製品立ち上げにおけるQCDを向上させること」を念頭に置き、有効に活用するための運用を策定・改善し続けることが重要です。
例としては、成形検討の締めとして最終的に確定した成形条件で再度射出成形CAEをすることで、解析自体にもトライ&エラーを実施し知見を蓄積すること。DoE(実験計画法)などを用いて、条件が不良に与える影響を現実・解析両方で比較整理すること、などが考えられます。
第2回は、上記図表で示したそれぞれの要素の中から「樹脂材料と樹脂データ」について説明します。
疑問やお困りごとがございましたら、以下お問い合わせより、ご相談ください。